「映像の素人に全権任せるなや!」と「クリエイターとしての井上先生を信じたい」という気持ちが混ざり合って、誰かの感想聞く前の初日に見るしかなくなりましたよね https://t.co/LQAhpTWS5G pic.twitter.com/njcp9hjJFW
— はげあたま (@hageatama) 2022年12月3日
はじめに
普通の感想は言い出したらキリがないので、自分しか書かなそうな点だけに絞って書き残しておきます。
あと、念のため未視聴の原作ファンに言っときますが、こんな記事読んでないでさっさと劇場に行きましょう。他人に評価を委ねていい映画ではないです。
湘南在住
おそらく宮城家の引越し先が辻堂団地という話。
完全に私事ですが、去年まで神奈川県藤沢市の辻堂に住んでたんですよね。あのまま住んでたら、辻堂駅前の109シネマズ湘南のIMAXで観てたろうになぁと悔やんでます。
辻堂の知名度がよくわかりませんが、位置としては、江ノ島と茅ヶ崎の中間地点。神奈川県民にはどこまでを湘南と呼ぶか論争があるようですが、湘南の中核地域の一つとして異論ある人は居ない立地でしょう。
辻堂って独特な雰囲気なんですよね。七里ヶ浜や由比ヶ浜、鵜沼なんかの江ノ島以東と比べると、地元民色が強い印象です。
明け方5時にコンビニ行ってると、人生をサーフィンに賭けてる様子の50がらみのおっちゃんが、仕事前の一泳ぎに行ってる光景を見掛けます。サーフボードのラックが付いた自転車や、軒先に干してあるウェットスーツなんて、辻堂来るまで知らなかった文化圏ですもん。
そんな辻堂ですが、おそらく宮城家が引っ越した先のモデルが辻堂団地と思われます。そして、リョータママが黄昏たりしてたあの海岸は、その目の前の辻堂海岸でしょう。富士山の見える西向きの画角で江ノ島は入り込んでなかったし、建物側にあったあの竹かなんかの柵含めて、記憶にある辻堂海岸ですから。
このまま134号線を東に行くと例の鎌倉高校前踏切(アニメOPの聖地)なので、通学の距離感としてもリアリティあるし、自分の早朝ドライブルートでもありました。
ここ10年くらいで駅前の再開発が進んでいて住みやすい街などと人気が上がっている辻堂ですが、作中の時代背景が当時のままなら駅の北側は関東特殊製鋼が残っている頃で、今以上に周辺地域よりも家賃も安かったと思われます。
リョータママがシングルマザーとして仕事を求めて首都圏に出つつも、馴染みのある潮騒を求めて選んだ地が辻堂。解釈の解像度上がってきて、映画観ながら1人でニヤニヤしてました。
いやー、自分も散歩ついでに辻堂海岸で海眺めながらボーッとしたもんですよ。うわ、死んだ目でサンドイッチをパクついてたら、トンビに掻っ攫われたの思い出したぞ!
完全に余談。駅近くの銭湯で地元のじーさんに辻堂の昔話を無理やり聞かされたりしてたんですが、ここ1年で潰れてるやんけ!
Googleマップ開いたら「閉業」表記でてて驚きました。オーナーの人はおそらく30〜40代な感じだったのですぐ潰れるとは思ってませんでしたが、やっぱコロナ禍は厳しかったんですかね……
無音の世界
話は変わりまして、試合の最後について。
大学の講義で漫画学(”漫画”が”マンガ”に変容していったところから始まる)を取ったことがあって、その印象的な話の一つが「オノマトペ(擬音)」についてです。
「杜王町の風の音」やら「アメコミ」みたいな例が挙げられる中、究極の表現として示されたのが山王工業戦のラストだったんですね。
要約すると、「人間というのは極限まで集中すると音が消え去る」というのを「オノマトペを排除する」という表現に落とし込んでる、とのこと。(花道がボールに飛び込んだ瞬間からは、山王ベンチの「ドックン…」という心音と、ネットの「パスッ」という手書き描写以外省かれてるから是非読み返してみてほしい)
あれから幾星霜。原作者自身による解釈が映像に落とし込まれたのですが、実際にそれは完全な静寂として描写されたわけですよ。テレビに流すことまで考えたら放送事故なので、表現の軸であるという信念がないと効果音だけは入れるとかで日和かねないとこでしょ、あれ。
さらに映画館だと、静寂の中でも観客が息を呑んでる緊張の共有がプラスされ、我々の耳に聞こえるはずのない「左手はそえるだけ」がはっきりと聞こえた瞬間、映画監督としての井上先生に完敗しました😭
おわりに
単純に木村昴さんの花道は軽さが足りずに声質が合ってなかったと思うし、CG作画は動きに対して迫力が足りないし(原作の終盤は絵の力がマンガのソレじゃないんだわ)、過去エピソードの挟み方はテンポ悪かったと思ってるし、思いきって前半端折ったのでいきなり美紀男が現れて笑っちゃったし、と気になる点を挙げてたら切りがありませんが、そんな減点法で観る作品ではないですね。
脚本・監督が映像素人の原作者という高確率で事故る建て付けにも関わらず、クリエイターとして描きたい芯以外を削ぎ落とした、見事な映像作品に仕上がってたと思います。
OPで山王工業が現れた瞬間に、薄々わかっていた(花道が坊主でバッシュも赤いんだもん)とは言え鳥肌がブワッと立ち、試合の端々で泣かされ、2時間半が一瞬でした。ポップコーン食べ忘れてたのに退場時にようやく気付いた映画は初めてです。
今年はRRRの年だったなと思ってたのに、最後の月に競る作品が出てきてしまったなと思えてます。
シンプルな映画が故に、音響設備のいい映画館でやってるうちに記憶に刻み込んでおきたいですね。