プロの将棋観戦のためのバイブル的な本が発売に!

将棋に限らず、収拾がつかないので1冊の本の紹介で1つの記事は書かない主義の自分ですが、是非オススメしたい本が現れました。先月末に発売された上野五段 著『将棋・序盤完全ガイド 振り飛車編』です。

嬉しくなっちゃってかなり長めになってますが、まとめると「初心者でもプロが指している最新の戦法をある程度理解できて、プロ棋戦の観戦が楽しくなる解説だから超オススメ!」って本です。</p>

将棋・序盤完全ガイド 振り飛車編 (マイナビ将棋BOOKS)

将棋・序盤完全ガイド 振り飛車編 (マイナビ将棋BOOKS)

この本が出るまでの状況

インターネットの発達などにより『観る将棋ファン』という概念が広がっています。(詳しくは以前書いた「一生楽しめる趣味『将棋観戦』のススメ」をお読みください)
とはいえ、プロ棋士の方々が何をやっているのかがわからないと魅力が半減なのですが、実際に指すためではなく、観るための解説本というものはほとんど存在しません。

 

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その中で『観る将棋ファン』のバイブルとも言える存在だったのが、戦法解説の第一人者である勝又六段の『最新戦法の話』でした。
ただしこの本は1冊で様々な戦法を網羅してあるため最低限の知識は要求されますし、何よりも日進月歩で戦法研究が進むプロ棋界において5年前に書かれた本では内容が古くなっています。

そして、それを補ってあまりある本が誕生したので、オイラが興奮しているわけです。それが、『将棋・序盤完全ガイド 振り飛車編』です。

 

読者層を低級者まで見据えている

「ネット中継を見ていますが、本当はプロの指し手の意味を理解したいのに、難しいのでおやつや写真を中心に楽しんでいる」という方にはぜひ本書を読んでいただき、プロの将棋をなんとなくでも理解して、楽しんでいただけるようになれば、筆者として、また一人の棋士として、これほどうれしいことはありません。

という前書きの本書は、駒の動かし方を何とか覚えている人でもきちんと読めるように意識して書かれています。全体が三部立て構成で、将棋の基礎知識→戦型の歴史→最新の戦型解説と順序立ててあるのですが、第一部-第一章が

  1. 序盤とは何か、知っている。
  2. 四間飛車三間飛車の違いが分かる。
  3. 休戦と持久戦の意味が分かる。

という基本的な質問をするところに始まっている事からも、出来るだけ敷居を下げているのが見てとれます。

 

プロの将棋を観戦するための本である

第一部-第二章も同様に感動した部分があります。第二章は「飛車をどの筋に振るか」ということで、中飛車四間飛車三間飛車などの長所・短所をそれぞれ3行程度で軽く整理してあるのですが、それに加えてその戦型の「愛用棋士」が書かれているんですよ!

たとえば月曜日の王将リーグ最終戦で、振り飛車党の久保九段が居飛車党の飯島七段相手に敢えて居飛車を選択したのに興奮したりしたのですが(理論的な背景は@itumonの解説に任せます)、それは棋士と得意戦法が結びついているからこそ魅力が出てるわけですね。

そういう棋士と得意戦法を結びつける情報は、通常の指すための解説本では出てこないわけで、プロの将棋を観戦するための本なんだなぁとグッと来たわけですよ。

 

『プロの意識』を重点的に解説してある

ぶっちゃけ、細かい変化など解説されてもわかるわけないじゃないですか。そこをきちんと心得ている本書は、どちらかというと『プロの意識』を重点的に説明しています。

まずプロ棋士の意識が時代とともにこう変化してきて、現在この戦法が流行っているのはこういう目的がある、という類の話に終始しているんですね。授業なんかでもベースにある考え方が理解できてないと単語を丸暗記してもすぐ忘れちゃいますし、逆に細かいところは忘れても、根元をしっかり押さえていれば全然違いますもんね。

 

ものすごくわかりやすい局面解説

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解説は局面図を多用して、その瞬間の大まかな狙いの解説だけにとどめてあり、たとえそこから手を進めた次の図が出るとしても5手以内の簡単な変化に抑えてあります。
そして、図の解説はほとんどが同じ見開きに収まっており、『第15図(←)』のように解説文の中で矢印による視線誘導までしてあるのです。珍しいくらいに細かい配慮が行き届いています。素晴らしい!(よくあるんですよ、20手先の追えないような変化の局面図と分岐をページめくった先に載せてたりする棋書……)

また各局面図においても、頻繁に狙い筋や、駒の移動跡を矢印で書き込んであり、本当にわかりやすさに苦慮された本だと感じます。

 

弱点だと思うところ

読んでいて唯一弱点だと思うのが、その戦法における最新形の項です。良くも悪くも『最新形』なんですよ、これが。

たとえば、1年前に出てきたゴキ中の菅井流△4四歩は既存の対策に振り分けられており、今年に入って執筆時点の夏までの状況が最新研究として取り扱われているのです。確かにプロの戦法は1ヶ月単位で結論が変わるほどの日進月歩な世界ですけど、本書のように年単位で低級者まで広く読んでもらえそうな本で、半年後には古くなる『最新形』についてが必要なのかは甚だ疑問です。

まあ、自分レベルでも▲5八金右超急戦の項で先月のC級2組 村田顕五段対菅井五段戦に間に合っていないのが惜しいなとか思ったので、出来るだけ最新の情報を詰め込みたいのもわかるんですけどね。

 

ものすごくわかりにくい紹介文でもうしわけありません

将棋観戦に興味ある人が持つ最初の1冊目として過去最高の名著ですし、もちろん既存の観戦勢も必読です。さあ、みんな買うんだ!(そうして、居飛車編が一日でも早く出るための礎となってくれw)

あと、ついでといってはなんですが、上野五段、ご結婚おめでとうございます。