傑作SFラノベ『筐底のエルピス』がほぼ99円セールなのでとりあえずポチってくれ

骨太な読書体験をしたいというあなたに、ハードSFの超傑作『筐底のエルピス』を勧めたいのです。

そもそもがガガガのラノベなので、SFファンだと読んでない人も多いでしょう。しかし、ゴリッゴリに時空を巻き込んで世界の命運を左右するハードSFやってるのが筐底のエルピスなんすわ。伏線に次ぐ伏線。時間と空間の緻密なパズル。6巻の副題なんか「四百億の昼と夜」と付けちゃってますからね。帯コメントは円城塔先生ですからね。

そんな本作が今月に4年ぶりの新刊が出て(冒頭の呟きは前巻出た当時の私)、かつ既刊8巻中6巻が99円、全巻でも実質1600円となると、今布教するしかないじゃないですか! しかも今ならGWで一気読みできちゃう。

おそらく5/1 23:59にセールが終わりますが(追記:半日経ってもまだ続いてるけどいつ終わるかわからんロスタイムかと。買う時はきちんと値段確認してください)、それに合わせてなんとか全巻読み返して今に至るので、しばし布教記事にお付き合い願います。

SFで染まった呪術廻戦

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https://a.co/jaDIm11

本作は、端的にいえば「“呪術”部分の理屈が惑星外テクノロジーの時空操作により描かれている『呪術廻戦』」と思っていただければわかりやすいでしょう。新刊が4年でないうちに説明がしやすくなって本当に助かる😅

 

人間に取り憑いて殺意と暴力をばら撒く“殺戮因果連鎖憑依体”、通称“鬼”を退治する現代日本の組織 内閣府宮内庁外院《門部》の話なんですが、その鬼と戦う術こそが、個々人の性格などに合わせて形状や性能などが異なる“停時フィールド“。主人公・ 百刈圭の場合、3秒間だけ好きなサイズの長方形の空間を時間レベルで完全停止させる《朧箱》を操ります。

この”停時フィールド“、範囲内を完全停止させられるため、敵を閉じ込める檻としても使えるし、何よりも空間を切り裂くので物理的に阻むことができない刃となるわけです。

 

伝奇系対魔ダークファンタジーにおける異能バトル物としていい感じですがベタな印象も拭えませんね。でも、筐底のエルピスの良さはここからです。

 

この”鬼”、宿主を殺すと因果を辿ってーーたとえ遠隔や間接的な殺しだとしてもーー殺した相手を乗っ取るという厄介な仕組みにより不死を達成している、文字通りの“ 殺戮因果連鎖憑依体”なわけです。

こうなると単に倒すだけでは解決しません。そこで出てくるのが“ワームホールゲート”の存在。世界で3つしかないこの“ゲート”により、取り憑かれた人間ごと仮死状態にさせて1万年後に解ける停時フィールドに封じて未来に送り込むと、「人類が絶滅しているため、他に取り憑く先がない」と“鬼”の憑依プロトコルが消滅を選び、真の討伐完了となるわけです

ここで明らかになるのが、擬似的に未来を覗ける結果、人類はあと100年ほどで“鬼”を抑え込めずに滅亡が確定しており、主人公の組織は人類滅亡を少し先伸ばしにしているだけというのを突きつけられながら戦っているんです…… 

 

この、伝奇系ファンタジーとハードSFが渾然一体となった感じ、刺さる人にはブッ刺さるでしょ、こんなん!!!

 

 

さて、ここまでかなりネタバレっぽいことを書いてきたようですが、これでも序章も序章。1巻の冒頭4分の1の内容でしかありません。これで「私の大好物じゃん!」となった人はこれ以後を読まずに全巻ポチってくれ。

 

狂気と理詰めの鬼滅の刃

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https://a.co/ixxEhR6

本作、『呪術廻戦』みたいなもんという雑な説明をしましたが、敢えてもう一つ例えるなら『鬼滅の刃』みたいな作品なんすわ。こういう例えが作品の評価軸として失礼じゃないかというのは悩ましいですが、少なくとも私個人にはその2作以上にブッ刺さっていますんで!

 

さて、主人公・百刈圭には妹がいるんですが、その妹・百刈燈こそ、前述のワームホールゲートのキーマンなんです。この百刈燈、数年前に“鬼”に惨殺されたんですが、偶然ワームホールゲートの制御が可能な当主の器としての適性を見出され、無理矢理な肉体改造による生存の代償として表情や成長を奪われてしまっている妹……。お兄ちゃんである圭が“鬼”との戦いの人生を選んだのもそこなんですねぇ☺️

 

ただ本作は少年マンガではないため、主人公が22歳で根暗なガリ勉タイプなのが読みやすさに繋がってるなと。何度も絶望的に追い詰められ続ける作品ながら、ある程度メンタルは成長しきっていて俺Tueee的な鬱陶しさやガチの躁鬱などもないため、ある種の冷静な狂気と理詰めで物語を牽引してくれるのが、この百刈圭という主人公の魅力なのかな、と。

世界滅亡レベルのループ物

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https://a.co/foJ6ozs

ここからはちょっとネタバレに踏み込みますよ。

 

先ほど出てきた「ワームホールゲートによる1万年後の未来を使った鬼討伐」って、起こっている現象としては「現在を起点とした、タイムトラベルによる分岐世界の枝刈り」なんですよね。そしてキーポイントとなるのが、停時フィールドは片道切符のタイムトラベルや、超高速移動、果ては恒星間航行などにも応用できる舞台装置な訳です。

また、そんなワームホールゲートが世界に3つあるということは残り2つそれぞれに鬼と戦う組織がいるわけで、そりゃあ日本だけの話じゃ済まない敵対展開にもなるに決まってます。

 

創元SF短編賞優秀賞も受賞した作者がそんな設定群をぶん回しつつ、あとがきで過去の自分を罵るほどに伏線をばら撒いて行き着いた8巻は……「もうめちゃくちゃだよぉ」という言葉では表しきれないくらいの緻密な論理パズルが迎えてくれます!

いやー、ちゃんと一気読みしたからこそ何とか飲み込めた部分が大きかったので、みなさんもぜひ追いついてくださいな。

 

おわりに

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https://a.co/3rfb4uV

本作はラノベなので当然ながらキャラ要素も大いにあるし、各キャラがそれぞれ酷い目に遭うんですが、そこについてはネタバレになるので読んでからのお楽しみということで。

なお私は、キャラ名にすら伏線入れてる作品が大好物です!!!!!