第3回将棋電王戦 第3局が10倍楽しくなるかもしれない対局者紹介 YSS編

さーて,棋士側の2連敗で向かえた第3局ですよ。

希望的観測ながらも,商品かかっていてみんなの正直な気持ちが出ている公式の将棋電王戦ととくじ。 第4局などはツツカナの得票が66%にもなっている中,第3局では82%が豊島七段が勝つと予想されています。

確かに,豊島七段にツツカナではなくYSSをぶつけたのは星稼ぎに見えなくもないです。しかしながら,それは甘い主張せざるを得ない。 いやいやいやいや,ここのところのYSSはとくに強いですから!

そんなわけで,どう甘く見積もっても勝って当然という状況ではない現実を検証していきます。

 

豊島?強いよね(ry

統計学的な将棋の強さを現す最新レーティングでも,羽生三冠,渡辺二冠に次ぐ全棋士3位に位置する豊島七段。 説明するのもアホらしいほど強いです。 「序盤,中盤,終盤隙が無い」はネタでもなんでもなく,研究家なのに研究範囲を離れても強いからこその3位です。

研究を苦にしない若手(1990年4月生まれで,YSSとほぼ同時期に誕生らしい!)であり,上2人のタイトル保持者という立場ある人という忙しさも加味すると,対コンピュータ将棋という点では棋界最高にして最後の切り札といっても過言では無いでしょう。(本人はコンピュータに強くない旨を述べてるのが不安ですが)

要するに,第3局は勝ってもらわないと冗談抜きで棋士側全敗が現実の色を帯びてくるわけです。

 

YSSの軽い紹介

AI将棋の中身と言えば,今回最も有名なコンピュータ将棋と言えるかも知れません。

1990年開発開始という,コンピュータ将棋の歴史そのものなソフトです。 世界コンピュータ将棋選手権では22年連続決勝進出という偉業を為しており,ソフトの進歩が著しい中でも常に強さを保ち続けている存在です。

また,YSSと彩のページではコンピュータ将棋の歴史というレベルの情報が残されており,お暇があればとくに掲示板のログは貴重な資料として,今日の片手間に読んでもらうと楽しいかも知れません。

 

floodegateでの活躍

まずは参考にすべきは,なんと言ってもコンピュータ将棋道場「floodgate」です。 似たソフトと戦い続けるfloodgateだとそのレーティングが普遍的なものかという議論はありますが,試行回数の少ない大会などよりもコンピュータ将棋の強さを可視化してくれるありがたい存在です。

現在,YSSは2012年度からStockfish風探索でレーティングで150上乗せしたというのは伊達じゃなく,第二集団でしっかりと存在感をアピールしています。

登録名はYSSF_6t_x1ですが,FはStockfishでしょう。 そして6t_x1は,山下さんがYSSのテストをCore i7 980X(3.3GHz 6core)の6スレッドでやられているので,おそらくこれだと思われます。 (もしかしたらXeon® Processor W3680 かもしれませんが,いずれにせよ1世代以上古いかと思われます)

そして,第2局のやねうら王がYSSと競っているので基準としてわかりやすいです。
YaneuraOh_dev20140222(_4771K)に関してはStockfishバージョンでしょうから,佐藤紳哉六段が「明らかに強くなっている」と言っていた差し替え後の奴です。 参戦当時のやねさんのコメントにある

おそらく最終的なレーティングはR3150~R3200。公平に見てツツカナ、YSS、gpsfishと比肩する棋力であると言えると思う。

というのは正しいと思います。 やねうらfishはツツカナくらい強いですし,それと同じくらいにYSSは強いです。

客観的に見て,おそらく第2局バージョンのやねうら王と同等以上には強いでしょう。

 

コンピュータ将棋そのものの底上げが半端ない

YSSは去年の世界コンピュータ将棋選手権ではギリギリの決勝進出で,決勝でも1勝しかできていません。 また,8月の大会では習甦に先後で連敗して,その習甦は電王戦出場の5枠にギリギリ滑り込みでした。 

この辺りを見ると,ponanzaとツツカナは安定の二強。 やねうら王は読めない。 よって,習甦とYSSは希望的観測で棋士側が取って欲しいというのが下馬評でした。 

では,習甦が弱かったかと言えば第1局の通りです。 これについては,将棋記者の松本さんが習甦の竹内さんに質問したい事をTwitterで募集していたので

 

と聞いてもらいました。 すると返ってきた答えがこちら。

 

むー,きちんと強くなっていらっしゃんですわ,これが。

そんなわけで,甘く見積もっても前年度と比べてレーティングで100~150 = 自己対戦で1~2割勝ち越すくらいに上位陣のボーダーが上昇し続けていると思ってもらえばいいでしょう。 そんな状況で電王戦に出場できている時点で,そのソフトが弱いわけがないですよ,そりゃ。 

 

今年はもっと強くなってる!

すでに2014年度世界コンピュータ将棋選手権は登録ソフトの仕様が明らかになっています。 その中でYSSは,昨年見送ったAmazon EC2のクラスタで登録されています。 この仕様では第4回電王戦があっても反映されないでしょうが,こういう試みをし続けている姿勢だけでもすさまじいでしょう。 世界コンピュータ将棋選手権で22年連続決勝進出は伊達じゃないですね。

10年前とはプログラミングのアプローチそのものが変わってきていて,現実的にBonanza以前に活躍していた個人開発の将棋ソフトは軒並み裏方に回っています。 しかしながら,YSSだけは四半世紀の歴史を持つ古豪という皮を被りながら,その中身は完全に最新の実装+長年開発してきた職人芸という鬼です。 

 

いやー,わかっていたけどまとめるとYSS強いし,応援したいですね。 しかしさすがに今日は豊島七段に頑張っていただかないと。 さっそく向かえた電王戦の山場,刮目ですよ!