溶鉱炉解体についていろいろ解説してみる

自分の専門分野について一般向けに語ることほど面倒な事はないのであまり触れてきませんでしたが,これでもオイラは大学院にて鉄鋼材料屋さんをやっております.工学系でも大別すると機械屋,電気屋,化学(ばけがく)屋,電気屋などがあり,その中でいう材料屋さんですね.その中でも鉄に特化した人なわけです.

んで,絶賛解体中の製鉄所、中身が丸見えで大興奮!って記事見てうぉぉおおおとなったので,専門家の端くれとしてちょこちょこ書いてみる.リンク先を別のウィンドウに開きつつ眺めてみるとわかりやすいと思います.

ここに載ってるのは溶鉱炉ですね.専門用語だと高炉と言います.鉄の作り方は溶かす(高炉)→成分調整(転炉)→加工(圧延)という手順を踏むわけですが,これの第一段階をやる装置を解体しているわけです.

この高炉というのは簡単に言っちゃえば酸化鉄を鉄に還元する大規模装置と思ってください.酸化鉄(鉄鉱石)とコークス(炭素)をベルトコンベア(9枚目写真)で高炉の50m以上ある一番上から投入して酸素を吹き込みつつ脱酸することで,数時間かけて一番下に行き着く頃には溶けた鉄になってしまい,その出口にある釜に注がれ(5枚目),この釜が定期的に回って(6枚目)中身が次の工程へと搬出されるわけです.だから,元記事側では花形云々とあるこいつは受け皿程度の役割しかないわけでして,見た目的には似た次の工程である転炉こそが花形だったりします.(まあ,搬出時は火花飛び散らしてぐわーっと溶鉄が向かってくるからあれはあれで見応えある物ですが)

この高炉解体の何がすごいかと言いますと,高炉ってのは一旦稼働しちゃえば20年以上24時間稼働し続けているので,休むことが無く止まっている姿なんてなかなか見られないのですよ.なぜなら,常時稼働して溶かし続けないと高炉内の鉄が全部冷えて固まってしまい,復旧がものすごく大変だからです.

今回の場合は,高炉はその性質上生産調整が行いづらいものなので,不景気にはさっさと見切りを付けて古い高炉の停止期限を前倒しにして,より生産性の高い高炉を作るんだと思われます.何故不景気なのにさっさと次の炉の計画に移るかと言いますと,見てわかるとおり大規模かつ複雑な機構である高炉を立てるのを景気回復待っていたら,いざ需要が増えた時に高炉が稼働せず生産量が稼げないからなわけです.研究も一緒で,景気いいときは生産ラインが開いていないので実験用に装置を割けないのですが,不景気になったら次に繋がる研究をガンガン推奨されるので,悪いことばかりじゃなかったりします.でも,景気はいいに越したことはないですけどね.

以下,もう少し鉄の生産について続きを書いてみます.これ以降は蛇足.

高炉から搬出されたばかりの鉄は,炭素を中心に不純物入りまくって,使い物になりません.そこで,トーピードカーという輸送列車(製鉄所は広すぎるので線路が引いてある)にて溶けた状態のまま運ばれ,先ほどから何度が名前を出している転炉へ向かいます.

転炉というのは50トン分くらいの小さな釜なのですが,これ毎真空引いたり,不活性ガス充填しつつ酸素を吹き込むことで鉄の中の不純物を軒並み取り去って純粋な鉄を作れます.そして,ここで作られた純粋な鉄に各成分の元素を投入すること鉄鋼として圧延工程へと流れます.

最新の転炉はppmオーダーで不純物を取り除けるので,これが最終製品の性能を左右すると言っても過言ではありません.海外メーカーより日本の鉄が優れている理由の一つもこれなわけです.元々の溶媒である精製水の純度で出来上がる溶液が大きく左右されるのと同じです.

これ以上は長くなりすぎるので今日のところはこんなところで終わります.まだまだ,鉄と鋼の違いとか,圧延工程とか,いろいろ書きたいことはあるので気が向いたら続きあるかも.