はじめに
最初に断っておきます.女流も含めたプロ棋士の方々を軽視するような風に取られる部分があるかもしれませんが,記事の性質上ご了承ください.毎月,将棋世界の配信をwktkして待ってる勢です.
さて,事の発端は米長永世棋聖とボンクラーズの一戦の発表です.今年の世界コンピュータ選手権で優勝した現在最強のコンピュータ将棋を,元名人経験者が迎え撃つとあり,盛り上がっています.しかし,個人的にはこの対局には大きな疑問符が浮かんだので,その辺を検討してきます.
昨年の清水女流王将(当時)とあから2010の対局
2005年,みんな大好きハッシーこと橋本七段(現在)をTACOSというソフトに危うく負けそうになったのをきっかけに,コンピュータ将棋と棋士の対局は将棋連盟が管理する事になりました.
そして去年,その大きな一歩として,清水女流王将があから2010という合議制ソフトと対局する大イベントが開かれました.結果として清水女流王将は完敗に近い負け方をしたんですが,そこから検討していきます.まずは事実の列挙から.
- 女流棋士は男性のプロ棋士よりは格段に弱い(知らない人は王狩とか読もう!)
- 清水さんは女流最強クラス.
- 将棋連盟と関係の無いアマのトップクラスとの対戦では,コンピュータ将棋が勝ちまくってる.
- アマのトップクラスは,元奨励会の方などが普通にいるので下手なプロ棋士より強い.
さて,この条件を,今回はレーティングの観点から検証したいと思います.レーティングのベースとなるのは,詳細に現在進行形で全対局調べてレート出しているサイトがあるんですが,期待勝率と実質勝率の差違などの検討を見ても,このデータはきわめて正確であると考えられます.今回は,これを元に検証していきます.(2011年10月時点)
このレーティングは男性と女性を分離して行っているので完全な比較は難しいのですが,男性棋士ランキング側の一番下にある女流棋士の項目は,男性棋士と対局を持てる=女流の上位陣(本年度は上位8人)の平均でして,そのレートは男性棋士の平均を1500として,1211となっています.清水女流王将一人ではもう少し上がりそうです.
さらに,アマトップの平均が1375で,それをコンピュータ将棋が悉く退けてる事を考えると,レート差は150以上.その場合の清水女流王将側の期待勝率は3割程度です.持ち時間長めな対局で多少人間側に有利になっても,勝つのは難しかった事がわかります.
米長永世棋聖はコンピュータ将棋の試金石となり得るのか?
さて,本題です.現状,はっきりと硬さがわからないコンピュータ将棋だからこそ,より硬いプロ棋士をぶつけて硬さを調べたいわけですが,そこにぶつける人が米長永世棋聖というのがものすごく疑問でした.もちろん,ある程度知名度があり,対コンピュータ将棋そのものの研究をする時間があり,負けても大きな被害にはならない(?)人物として,ある意味最適ではあるのですが,引退して10年の超一流棋士の棋力ってイメージしにくすぎて,勝っても負けてもコンピュータ将棋の強さがわかりにくいと思うわけです.ということで,同様にデータで検証してきます.
- 歳を取ると棋力は落ちる.
- 恐らくお互いに搦め手はやらないので,棋力通りの結果となる.
- コンピュータ将棋のPonanzaがプロ棋士も参加していると言われるネット将棋の将棋倶楽部24で過去最高レーティングたたき出した.
- Ponanzaが過去最高レーティング出したと同時期のWCSC21で,Ponanzaは5位,ボンクラーズは1位
現在,還暦以上で一番活躍している棋士は桐山九段で,上記のレーティングは1448.たとえば,みんな大好き加藤一二三九段は1395となってます.よって,米長永世棋聖(68)が引退して10年経ってる現状では,いくら勘を取り戻そうと勉強し直しても,同等以下の棋力だと考えられます.前述したようにレーティング1375なアマトップと互角に渡り合えるかどうかもあやしいわけです.
しかし,理想通りの棋力を取り戻せていたら,前回戦った清水さんよりは少し強いと考えられるので,コンピュータ将棋がトッププロ越えを目指す死亡遊戯の2階としては,案外順当なんじゃないでしょうか.現在,トッププロのレーティングは1900弱.どこまでコンピュータ将棋側が勝ち続けられるのか,楽しみです.
さて,一方のボンクラーズですが,はっきり言ってデータ不足です.正直,あから2010もコンピュータ将棋の代表としてはよくわからん存在でして,クラスタ大量に使ってる割に活かしきってないみたいですし,そもそも合議制があやしいというのは意見もあるのに,その強さを量る機会がなかった訳です.その点,ボンクラーズはコンピュータ将棋選手権の優勝やをfloodgateでの2800オーバーというレートからも,客観的に見て現在のコンピュータ将棋の中で最強クラスと言えるでしょう.そうなると,渡辺竜王が2008年時点のBonanzaを奨励会有段者クラスと言わしめた事や,その奨励会有段者クラスは上記レートで1509と男性棋士平均に相当する事,そして当然それから3年でコンピュータ将棋の棋力は全体的に上がっているであろう事から,米長永世棋聖とのレート差は150以上で,勝率も7割越えそうですね.この辺の客観データがそろわないのがもどかしいですが,だからこそ,プロ棋士との対局が見たいんですよ.
結論
客観的に見て,7割方コンピュータ将棋が勝ちそうです.しかし,前述の対局制限時に大イベントなビジネスチャンスになるというプロとして当然の思惑があった中,実際に1億円が動いているんだから,素直に棋界に吹き込んだ新しい風として,お祭りを楽しむのがいいのかもしれません.
出来れば,もうそろそろ三番勝負くらいのしっかりとした場でどれぐらいコンピュータ将棋が強いのかを見たいですね.片上六段の「1番入った」と「追いついた」と「追い越した」はそれぞれ、ずいぶん差があるという言葉は非常に納得出来ます.