昨年,羽生2冠の20期連続王座獲得を阻止した渡辺王座.
そして,それに対して当たり前のように挑戦権を獲得して王座復冠を狙う羽生2冠.
当代最強の2人がぶつかり合い,2勝1敗にて羽生2冠が王手をかけた状態で迎えた王座戦第4局が昨日行われました.いやー,凄まじかった.終局直前の22時過ぎに千日手指し直しで,終わったのは午前2時.結果はご存じの通り,羽生3冠誕生,そして20期という同一タイトル保持記録タイになりました.
対局者2人のみならず,関係者の方々,お疲れ様でした.
自分はニコ生勢でしたが,解説の浦野八段の軽妙なトークが冴え渡り,結果的に1000分超という長丁場ながら,圧倒的に満足感ある時間を過ごせました.夜中の2時まで見ている連中だからとはいえ,4時間延長しての17時間にわたる長丁場を経て,98.4%に「とても良かった」と言わせるコンテンツって他にあるでしょうか.将棋の魅力を感じますね.
さて,それでは最大の山場である鬼手『△6六銀』の場面に向けて振り返りましょう.
まず羽生2冠が2手目△3二飛から4手目△4二銀という昨年出た佐藤新手で,前局の角交換四間飛車に引き続き,一同の度肝を抜いてきます.この手は,昨年のA級順位戦で谷川九段が渡辺王座に対し当時の最新形として突きつけ,谷川九段の完勝だった作戦です.(その時の記事へりんく)
しかし本局では,場を落ち着けての重厚な指し回しを棋風とする渡辺竜王の応対により,気付いたら左美濃に対して玉頭戦という,検討陣一同が「懐かしい」,「昭和」と口を揃える展開に.後手からの急戦が難しい戦型なら左美濃は有効という判断でしょうか.(局面図は58手目 △8三銀)
そして手は進み終盤戦へ.一時は後手優勢で一致していたものの,先手の精算と粘り強さでなんと局面は先手勝勢へ.
しかし,後手は羽生2冠.これぞ羽生マジックという鬼手 122手目△6六銀の打ち込みです.お互いの玉からも遠い相手の歩頭に銀のタダ捨てですよ.これには検討陣含めて一同騒然.Twitter見てても,この手の衝撃がわかると思います.
これは,ここから後手玉が追われた時に△7四玉と出た際に▲6六桂と打って上部遮断される詰めろを消してるわけです.しかし,放置すると△8八角成からの長手数の詰めろで先手が負けます.それを踏まえても,こんな最終盤にて金銀を持ってない先手に対し,歩で銀をタダ取りさせるという発想が,ぶっ飛びすぎでしょう.
結局,先手は同歩しかなく,ここから千日手になりました.(厳密には▲7七銀上で受けきりという@itumon説がありますが,秒読みでこの手出されて読み切るのは無理でしょう)
またおもしろいのは,この122手目で△7一金とし,▲同銀とさせることで攻め駒を上ずらせて攻めを間に合わせて千日手という手順も検討されており,本当にギリギリまでバランスが取れた局面だったのだと感じます.千日手は将棋のシステムが不完全な部分だと思いますけど,だからこそおもしろいですね.
この後の指し直し局は終始羽生2冠が攻め続ける展開で渡辺王座が粘りきれませんでしたが,それも△6六銀の影響があると思うのは考えすぎでしょうか.例えば△7一金でも千日手にはなったでしょうが,相手の攻めを逸らして持ち込むだけなので,「後手が負けを何とか引き延ばした」って関係で指し直しになったと思います.現に,対局直後も,翌日のブログでも渡辺王座は△6六銀にしきりに触れていました.
そんなわけで,特に勝ちへ結びついたわけではありませんが,だからこそ王座を力尽くで引き寄せた知る人ぞ知る伝説の一手だと思います.あー,丸1日経っても△6六銀にはゾクゾクさせられます.