ちょいと電子版がお安いので、超絶ミステリ『ルヴォワール』シリーズを読もう!

講談社の一部文芸作品が50%ポイント還元とかなってたので、ミステリ作品の布教記事です。
今日紹介するシリーズは1巻しか安くなっていませんが、とりあえずポチるんや!

 

さて、現在自分の中で熱い作家を3人挙げろと言われたら、古野まほろ先生と野崎まど先生、そして今日の主役である円居挽先生です。 そんな円居先生のデビュー作でもある 『ルヴォワール』シリーズが、4冊目『河原町ルヴォワール』にてこの度完結しました。(結構経ってますけどね)

正直なところ、デビュー作である『丸太町ルヴォワール』が鮮烈すぎて2巻と3巻は見劣りするものであったと言わざるを得なかったんですよ。 もちろんミステリとして充分な及第点ではあったものの、それでも円居挽という作家は一発屋なのかとすら危惧していました。

しかし『河原町ルヴォワール』でその危惧はいい意味で見事に裏切られました。 才気煥発とはまさに本作の円居先生にこそ相応しいでしょう。 作家としてみたら才能などで努力を括られるのは業腹かもしれませんが、あらゆる種類の天才を正面から描ききり、その上で作品全体のトリックを芸術的にまとめあげた手腕は凡人には永久に届かぬ物です。 一ミステリファンとして嫉妬すら覚えましたよ。

レーベルこそ講談社BOXではあるものの、メフィスト賞作品が目指していた極北へと到達した作品です。そう、こういう過剰なトリックに、これでもかというほどキャラクター性を振りかけた作品こそ、俺が求め続けてきたものなんですよ!

 

『双龍会』という舞台設定のエンタメ感

「解った。犯人はお前でいい」

「ルヴォワール」シリーズは現代の京都を舞台に,『双龍会』と呼ばれる私的な独自裁判が繰り広げられる法廷劇です。 逆転裁判のイメージでしょうか。

まず,この双龍会という設定が優れているんですよ。 ミステリではあらゆる試みがすでになされていますし、究極的に言えば後期クイーン的問題が立ちはだかるが故にミステリ=真相を訴求する行為というのは限界があります。そこで円居先生は、双龍会という枠組みにより真相が真相である必要がない場を提示してきたのです。

双龍会において求められるは本当の真相ではなく、裁判官役である『火帝』と双龍会を観ている聴衆が説得力を感じ,何よりおもしろい「真相」こそが真相として決着を見ます。 つまり、真相は検事役である『黄龍師』と裁判官役の『青龍師』が言の葉により紡ぐ物であり、虚実入り交じった舌戦こそが従来のミステリとは一線を画した本シリーズの魅力なのです。

けれども円居先生はかの京大ミステリ研出身。 そこにミステリとしての妥協はなく、最後にきちんと美しい本当の「真相」が提示してくれます。 それが本当に美しい。 ロジックとストーリーが緻密に解かれていく様こそ、ミステリの醍醐味でしょう。

 

天才に説得力を持たせる難しさ

数字の中で、7だけが孤独なのよ

森博嗣先生は『すべてがFになる』の冒頭において、たった数ページのやり取りにより圧倒的な説得力を持って2人の天才を表現してみせました。

しかしこんなこと、誰もが正面からなし得られるわけではありません。 天才をミステリィで表現するためには、天才が生み出すロジックを作家自身が生み出し、それを説得力を持って読者へと提示しないといけないわけです。 
「彼は天才だ」と書くことは簡単でも、その「彼」が天才であると読者に納得させるのは至難の業ですもんね。

そんな中、ルヴォワールシリーズでは天才的かつ悪魔的な論理が縦横無尽に提示され、様々なタイプの才能を、様々な角度から表現しきってみせてくれます。

 

魅力的なキャラクター

軽く前述しましたが、出てくる人々が片っ端から才気溢れ、一筋縄ではいかない天才ばかりです。 何せ、京大法学部首席の主人公その1(?)が劣等感抱えてストーリーが進んでいきますからね。

そして、そのキャラ付の方向性は清涼院流水や西尾維新に近く、過剰包装気味な属性盛り込みが為されています。  双龍会などやらなくても十分におもしろい小説に仕上がりそうな登場人物ばかりであり、そこから紡がれるストーリーが面白くないわけがありません。 しかしルヴォワールシリーズが素晴らしいのは、そういうキャラの在り方がトリックの材料でしかないんですよ、ある意味。

何という贅沢。 何というミステリ愛。

メフィストを血肉とし、ファウストを喰らってきた自分としては、しびれざるを得ません。

 

『河原町ルヴォワール』によるシリーズの終焉

処女作『丸太町ルヴォワール』はフェアとアンフェアの境を揺蕩いつつ,ギリギリながらもフェアなミステリでした。 しかし『河原町ルヴォワール』は、身体の9割はアンフェア領域越えつつ右足だけフェアの地面踏んでいる状況にしか思えないし、読者がそう感じるように意図的に仕向けているのに、再読すれば否応なしにフェアだったのだと納得せざるをえないフェアさでした。 そう、これこそが新本格の真骨頂ですよ。

シリーズにちりばめたあらゆる伏線を細分化し,再構成し,芸術へと昇華させた超絶技巧。
当初全10巻に詰め込むはずだった残りの要素を1冊に凝縮し、それを破綻させなかった剛腕。

終章を読みながら背筋を震わせ、読了後に放心し、時間が経つうちに「これで終わりならしょうがないな」と思わせる最終巻でした。 ここまで諸手を挙げて称賛したミステリ、そしてシリーズ最終作は久しぶりです。 

 

おわりに

愛が溢れすぎて、伝えたいことを表現しきれたとは思えませんが、とにかく読んでいただきたい。

現在、8月19日まで(?)、1冊目の『丸太町ルヴォワール』Kindle版が50%ポイント還元となっています。 講談社BOXでして文庫化されていない後半2冊はお高めですから、とりあえず『丸太町ルヴォワール』を読んでみてください。 これで憑りつかれた人は、是非最終巻まで読んでください。 必ず1冊も飛ばさないでください。 後悔はさせません。 ああ、記憶を消してもう一度読みたい……

丸太町ルヴォワール (講談社文庫)

丸太町ルヴォワール (講談社文庫)