将棋電王戦 第3局が10倍楽しくなるかもしれない対局者紹介 船江恒平五段 VS ツツカナ

第2局の紹介では山本さんならいろいろとやってくれるはずだ!と書きましたが、3手目△5六歩までしか入力して、あとはponanza任せだったらしいですね。その分、ponanzaがponanzaらしい謎の指し回しをやってくれましたが(笑)

さて、第3局はツツカナの登場です。ponanzaが奔放なやんちゃ坊主とするなら、ツツカナは優等生です。あとにも示しますが、非常に人間っぽい将棋を指すコンピュータ将棋です。それを迎え撃つのは若手期待の星である船江五段。将棋そのものとしては、全5局で一番見応えのある熱戦になるのでは?と期待しています。

 

先手:船江恒平五段

去年はC級2組を10戦全勝1期抜けという26年ぶりの快挙を成し遂げた若手の実力者。
1 VS 1だった当初の第2回将棋電王戦プロ棋士代表として船江四段(当時)の名が発表された際、「将棋連盟、最初から本気だな」と感じたと言えば、どれだけ期待できるかが伝わると思います。

棋風としては正統派の居飛車党。オーソドックスなだけに定跡形では中盤までに差を広げるのも難しそうで、その辺りをどう工夫してくるのかが注目されます。
また詰将棋の名手とも知られており、その終盤力を武器にコンピュータを凌駕したりすると胸熱なのですが、どうなることでしょう。

個人的に船江五段で印象深いのは、なんといっても宮本三段と争った加古川青流戦決勝3番勝負ですね。とくに第1局の若さと闘志あふれる斬り合い(解説付き公式棋譜)は、今でも忘れることができません。(なお宮本三段は、先日の三段リーグ最終戦で破れて、プロ入りに惜しくも届かず。残念無念orz)

ちなみに、世間的なイメージでは誠実で爽やかな好青年な印象の船江五段ですけど、プロにあがる前の奨励会では酒と麻雀三昧で危機感が無く、プロ入り直前まで勉強を真面目にやらなかったという話です。その辺を踏まえた上で、第3局宣伝PVの師匠である井上慶太九段のセリフを受け止めると、「こいつには苦労させられたんだよ」という師弟愛を感じられます。(笑)

 

後手:ツツカナ

ソフトとしてはかなり新しく、大きな結果を残したのは去年の世界コンピュータ将棋選手権が初めてなはずです。(補足:その頃のコンピュータ将棋道場『floodgate』で目立って活躍していたので、ラッキーパンチというわけではありません。)世界コンピュータ将棋選手権でも、電王戦でも、5台の中で最もマシンスペックが低い環境で結果を残しているため、純粋なアルゴリズムとしてはもっとも優れたソフトといっても過言ではないでしょう。

プロの指し手を参考にプロらしい手を重点的に読むように設計されているようですが、同等の設計は他にもある中で、一番それに成功している印象を受けます。文字通り、「筋のいい」居飛車党の本格派です。
棋譜を見るだけで(´Д`;)ハァハァできる観戦勢はfloodgateにおけるVS Blunderの棋譜をオススメします。棋力そのものはツツカナ(実験バージョンのmaybe_tomorrow)の方が上ですが、Blunderも人間っぽい定跡形で戦法にこだわらず指すため、居飛車党の大御所に手を替え品を替え挑む若手という構図のぶつかり稽古に見えて、非常に燃えます。

 

ツツカナの開発者 一丸貴則さんは、いかにも理系畑の人で、仲良くなれそうな人です。(笑)
かなりシャイな印象だったので、よく電王戦開幕イベントの壇上に登場したなぁと感心していたのですが、インタビュー映像が一人だけ無くて「やっぱりね」と一部で評判です。
積極的に本番に近いバージョンを研究用に提供したり、船江五段とも積極的な情報のやり取りしているようで、勝負師と言うより研究家寄りですね。

参考:ご本人による電王戦Q&A

 

印象深いツツカナの一局

昨年の世界コンピュータ将棋選手権 決勝リーグ 激指との一戦です。

この将棋が素晴らしすぎて、将棋指しとしてのツツカナに惚れています。将棋がわかる人がこの角換わり腰掛け銀を見れば、コンピュータ将棋のイメージが覆ると思います。タイトル戦の最終局と言われても遜色ないような手順の応酬に加え、解説の西尾明六段のわかりやすい解説もあって、定期的に観直す神動画です。

まず、9:00~くらいの端攻めから△2四角→△6四角の構想が秀逸すぎて、後手が渡辺竜王だと言われても納得してしまうほどの美しい角換わりです。さらに19:00~から、解説の西尾六段が絶句して、思わず立ち上がった手順がこれまたレベル高すぎて、冗談抜きで「序盤・中盤・終盤隙が無い」将棋に魅せられます。

 

今回の見所

戦型予想は、思い込みと願望が入りますが、超正統派の重厚な相居飛車になるはずです。ツツカナは序盤数手は先に入力するようですし、船江五段も性格的に真っ正面から受け止めて勝ちにくるので、▲7六歩→△8四歩の堂々としたスタートになるのではないでしょうか。ponanzaは角換わりでは勝てないとみて3手目▲5六歩まで指定しておいたようですが、ツツカナは△8四歩で先手に委ねる気がします。そして、船江五段は先攻できて最新研究が生かせる相矢倉に誘導する……なんて未来になると開始5分で悶えます。

第1局はコンピュータの弱点が露呈し、第2局ではコンピュータらしい無茶苦茶なところが出ましたが、第3局はコンピュータかどうかは関係なく、プロをも唸らせる美しい一局になってほしいものです。5対5の団体戦に切り替えた妙手のおかげで、毎回違う楽しみ方ができて幸せですねー。(ほぼ本番用プログラムで研究しているので、穴を突かれる可能性も充分にあるんですが……