将棋が未だに進歩し続けているボードゲームであり,その魅力をどこかの誰かに伝えたい

前置き

春からちまちま書いていますが,将棋にはまってます.しかも,どっちかって言うと観る方です.正直,自分の棋力そのものは高くないですが,そんな自分でもおもしろいと感じる最新の将棋の魅力を,将棋わからない or 将棋界の状況を知らないどこかの誰かに伝えられたらと思って書いてみます.

今日の題材は,今期のA級順位戦 渡辺竜王VS谷川九段戦です.

谷川九段は来年50歳を迎え,羽生世代と呼ばれる現在40歳ほどの面々と比べると棋力の衰えは隠せませんが,今期は順位戦を4勝1敗でここまで来ており,まだまだ超一流だと言わんばかりです.

一方,渡辺竜王は現在タイトルを二冠保持しており,27歳の若さで羽生さんすら抑えて序列1位という最強の棋士です.

そんな2人が,名人への挑戦権争いを行うA級順位戦で1敗同士として12/8に対局を行いました.現在,羽生二冠が無敗でトップに立っており,今年の挑戦者決定を大きく左右する一局です.

戦法についての基礎知識

さて,ここで基礎的な前提知識をいくつか記します.

将棋は大きく分けて,飛車を動かさない居飛車と,飛車を動かす振り飛車というのがあります.一昔前まで,前者が正統派としてプロのほとんどが指すものでした.しかし,最近は振り飛車の優秀性が見直され,振飛車党も増えています.

また,将棋の研究が整備され,昔はおざなりだった序盤の駒組みだけで有利を確保する方向性が浸透した結果,ここ15年ほどで将棋は大きく進歩してきています.

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そんな進歩の1つが左から3マス目に飛車を振る,三間飛車ハチワンダイバー内でも描かれましたが,鈴木八段が従来は成立しないと言われていた7手目に▲7四歩が成立するとする新・石田流を見出し,7年前に新手発見を表彰する升田幸三賞を受賞しました.しかし,この1手は先手じゃないと間に合わないため,ハチワン21巻の的当将聖VS鈴木八段で後手番になった鈴木八段が新石田流三間飛車が使えないというセリフが出てくるように,先手専用の戦法だったのです.

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しかし,それをさらに覆したのが4年前に同じく升田幸三賞を受賞した2手目△3二飛戦法です.基本的にまずは飛車先か角道の歩を突く所から始めないと出遅れるという常識を覆し,2手目で後手も三間飛車が成立する事を示しました.しかし,歩を突かない出遅れをとがめる初手▲2六歩を突くことで,先手は2手目△3二飛戦法を未然に防げます.

そうなると,先手の初手は▲7六歩じゃないと戦型の発展性が乏しくなるのに,飛車を振ってくる相手には初手▲2六歩を突く事を強要されます.

谷川九段の4手目4二銀

長くなりましたが,ここから話は始まります.

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今年,2手目△3二飛戦法の新手として,さらに4手目△4二銀という手が出ました.出遅れる後手の不利を,急戦になる変化を防いでじっくり持久戦に持ち込めれば戦えるようになるって手なんですが,この新局面について,最新の月刊 将棋世界 2012年1月号(iPadでも買えます)のトッププロに将棋の局面からイメージを語ってもらうコーナーにて取り上げられており,正統派居飛車党の渡辺竜王は『これは私にはよく分からないんですよ.(中略)僕は振り飛車党には初手▲2六歩を突く主義なんで,2手目△3二飛はやったこともやられたこともないです.』と語ってます.一方,居飛車党ではあるけど最近は振り飛車も多い谷川九段は『これはなかなか有力と思います.(中略)自分でやるか?ハハハ.でも,最初からこれをやる予定で来て,初手▲2六歩と突かれるとがっかりするから,予定しにくい作戦ではある.』とのコメント.

そして,12/8の2人の対戦でさっそくその局面を迎えたのです.

上記の通り,相手が居飛車で来られると発展性に欠けるので,基本的に居飛車党である谷川九段相手に渡辺九段が初手▲2六歩を選べなかったのを受け,さっそく最新戦法を突きつける谷川九段.

戦況としては,35手目で早くも自陣に角を手放さざるを得なくなり,かつ49手目で▲5八飛と押し込められた時点で後手が若干の作戦勝ち.さらに今期竜王戦の敗局時に指した▲6九金のような,普段の渡辺竜王では指さない筋悪の79手目▲2九金で粘るものの,△3七竜からは一手一手で駒を剥がして,谷川九段の快勝でした.

将棋が本当に神懸かった出来のいいボドゲだと知って欲しい

コンポーネントの拡張やルールの変更も無く何百年にわたって遊ばれているボドゲで,未だにお互いの初手の最善すら確定しておらず,4手目に宝が埋まってるとか,将棋すごくね? そして,月刊誌でも追いつけない速度で新戦法を取り入れて,達人の域に達したおっさんが若手に突きつけて勝つとか,プロ棋士すごくね? 賭ける業界でもなく,ただただ純粋にボドゲの真理を追究し続けて生計を立ててるプロ棋士達って本当にすごいと思うので,もっとみなさんも応援しましょうよ.