将棋電王戦の2手目 △6二玉はなんだったのか

引退済みとは言え名人経験者の米長会長とコンピュータ将棋代表であるボンクラーズの世紀の一戦となった将棋電王戦,非常におもしろかったですね.前哨戦で繰り出してぼろ負けしたのと同じ,まさかの再度二手目 △6二玉でした.本人の発言含めて本格的定跡系になると思っていたので,度肝抜かれましたが,本当に勝ちにいってる米長永世棋聖の姿勢がかっこよかった!!!!! 実際,対戦前のアンケートで自分で米長永世棋聖が勝つと予想に入れつつも,結果が5割越えてて「みんな優しいな!」とか思ってましたが,そんな不安を覆す内容でした.期待してなくてすいませんでしたm( )m

さて,プレマッチで不発に終わったのに再度発動した二手目 △6二玉.全員がどよめきましたが,米長永世棋聖は決して奇手ではなく,ボンクラーズに対する最善手だと強調してました.それに関して駒の動かし方もあやしい人でもわかるように頑張って解説します.まあ,オイラもわかってませんけどね!

2手目 △6二玉

基本的に先手も後手も,遠くまで動ける飛車と角を活かすため,その進路を遮っている歩を動かすのが普通です.先手なら▲7六歩,もしくは▲2六歩です.では,2手目△6二玉の何がまずいかと言いますと,

  • 玉が邪魔になるので1手目にして振り飛車にする可能性などが消える(=作戦の幅が狭まる)
  • 重要な駒を同時に狙われやすい玉飛接近型になる
  • 飛車を活用するために飛車先の歩を突くと,玉の上部に隙が出来る

となり,あまり優秀とは言いづらいわけです.

しかし,たとえば2手目△6二玉で後手の駒が8筋側に集まった場合に,先手は2筋の角頭に殺到すれば突破しやすいはずなんですが,それをボンクラーズがやってこない事は確認しまくったでしょうし,そうなれば後述の展開で勝機を見いだせる最善手だという判断だったんでしょう.

では実際にボンクラーズの弱点を突く話になってきます.当初は相手陣まで自分の玉を送り込む入玉狙いかと思ってたんですが,どっちかって言うと稲庭に近かったですね.

将棋世界 2011年7月号より

コンピュータが力を出せない展開の一つとして,稲庭将棋というのがあります.上記のように歩を突かず駒がぶつからない展開だと手詰まりになって時間切れで勝てるというコンピュータ将棋相手専用の作戦ですが,こうなると大駒の交換や,相手陣に駒を打ち込んだりなどの打破が難しいわけです.

この展開をごく一部の人のみわかりやすいたとえをすると,猪木アリ状態(Wikipedia)ですね!!!

相手が立った状態で、正面に仰向けに寝て,膠着状態に持ち込むアレです.多少実力差があっても寝ている側は比較的安全で五分に持ち込めるので,一気に押しつぶされる心配が減り,あとはじわじわと勝機を探るわけです.

米長永世棋聖が局後の会見で読む量では勝てない以上,こちらが深く読むのではなく,相手に深く読ませないという趣旨の話をしていましたが,実際に73手目くらいまでは米長永世棋聖の予定通りの見事な展開だったと思います.厚みを持った位取りを得意とする米長永世棋聖が歩の戦線を綺麗に押し上げてた結果,ボンクラーズは攻めあぐねて飛車を行ったり来たりして一方的に手渡ししているのが素人目にもよくわかります.(32手目から69手目までの一連の飛車の動き参照)

最後は,米長永世棋聖言うところの万里の長城に穴が開いた感じで7筋に殺到されて負けましたが,まさに出来る限りの手を尽くして勝ちにいっていた米長永世棋聖はものすごくかっこよかったですね.

さて,急遽予定変更で,来年一気に5対5のプロ棋士とコンピュータ将棋の総力戦をやることが局後に発表されました.熱い,熱すぎます!!!!! 今までの発表では5年かけての5番勝負とか言ってて,さすがに5年目がきついのでは?と思ってましたが,米長会長と@kawangoの英断により,一気にマンガ的展開になってきました.まだまだ甘い手を指すことがある現状では,5人の団体戦は非常におもしろいことになるでしょう.今年も将棋,楽しく見られそうです.