「トクサイ」を「チャレンジ」みたいに扱う日経が製造業を滅ぼす

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今朝、「特別採用」、いわゆる「特採」が不正を表す隠語のように扱われる記事が出ていて、死ぬほど危機感を抱いたので、昼休みにガーッと書きました。
私自身は金属系の研究職ですが、遊撃部隊として製造工場の品質管理や生産技術開発、日常管理まで一通り顔突っ込んでいるので、上から下までの気持ちはわかるつもりです。

 

関係者によると、製造過程で顧客が求める水準を下回った規格外の製品を出荷することを「トクサイ(特別採用)」という隠語で呼んでいた。顧客の了解を得ずに、工場の独自判断で不正な製品を出荷していたケースもあった。一部工場では40~50年前でも「トクサイ」という言葉は使われていたという。

 

たとえばなし

いきなりですが、たとえ話をしましょう。身近なわかりやすい例として、あなたは冷凍食品の製造工場にいるとします。

ある日、地域停電で1時間 冷凍倉庫の空調が止まりました。しかしながら、1時間程度の停電では倉庫全体の温度にはほぼ変化が無いので、品質には影響がありませんでした。
運び込まれたばかりで温度が下がりきっていないロットだけは溶けた可能性が捨てきれないので廃棄するにしても、全部廃棄すると大損失です。

こういう時に、「トラブルで品質に若干影響が発生したかもしれませんが、追加調査で残りは問題なく食べられる製品と確認してますから、正規品として納入させて下さい」と顧客に採用を申請するのが、「特別採用」、いわゆる「特採」です。(余談として、特採は実用的な略語なので「トクサイ」とかカタカナにされてもピンとこない)

特採 - Wikipedia

 

特採の必要性

基本的に、製品の品質規格(事前ルール)は、量産で問題が出る事を前提に余裕を持たせてあるものです。 逆に全く問題が発生していないと言ってる製造現場があったら、そっちの方が別の闇を抱えてます。

そういう、「通常基準の80点以上ではないけど、最終製品としての合格基準50点ボーダー以上は余裕でクリアしているよ」という製品を、顧客による承認、あるいは再検証を経て採用させる、グレーゾーンの存在は非常に重要なんです。

だって「OKと言っちゃえば損失0円、NGと正直に報告すると問答無用で1000万円の損失」という0か1かというルールにしてしまうと、確実に隠ぺい体質は進むに決まってるじゃないですか、絶対にその中間も発生し得るんですから。

一応、そういうときのために不良率分を価格に上乗せもしてありますが、品質的に問題の無いものまで下請側が買い取り、みたいな状況になる以上、正直者が馬鹿を見る羽目になるため、そりゃあ現場は黙るよね。

これが常態化していけば、50点以下の製品が合格品として市場に出してしまう日が来ます。

 

終わりに

もちろん、記事中にあるように顧客の承認を得ずに黙って出荷するのは完全にアウトですし、神鋼の企業体質は褒められたものではありません。

しかしながら記事の書き方だと通常の「特採」が不正としか読めませんし、社会的に「特採は不正」なんて捉えられ方をしてしまうと、いよいよ今回のような現場側の「努力」が加速するでしょう。 それなりにリテラシー高いであろうブコメ見てても、不正の延長と受け取っている人が多くいます。

このまま、マスコミが東芝の「チャレンジ」のようなキャッチーな語句として「トクサイ」を連呼し始めると特採申請が滞って、マジで今回のような事例が加速するので製造業が滅びかねません。当該記事が次の虚偽事件を生み出しかねないと自覚して、日経は早く訂正記事出してくれ、頼む。